スタンダール

2008年05月18日

スタンダール「赤と黒」19世紀年代記 翻訳比較

新潮文庫版 小林正訳 1957年初版

 文字は大きめです。その割りに行間が詰まっているため、1ページ内に文字がぎっしり詰まった印象ですが読みづらさはありません。その分ページ数が少なく、コンパクトになっています。

 訳注は、文中にカッコ書で出て来るため、読書の妨げにならず、読みやすいです。ただし、注の数は最少限度に押さえられているので、世界史の予備知識がない場合は、少々つらいかも知れません。

 上巻には、解説は付いていません。下巻には、作者や作品についての詳細な解説が付いています。


岩波文庫版 桑原武夫・生島遼一訳 1958年初版

 とにかく文字が小さくて読みにくいです。

 訳注は、数は多いですが、巻末にまとめてあるので、読書中にページをめくって注を確認するのは、非常に面倒です。

 上巻、下巻とも解説は付いていません。


光文社古典新訳文庫版 野崎歓訳 2007年初版

 文字が大きく、1ページあたりの文字数が少ないので読みやすさでは一番です。その反面、ページ数はかなり増えてしまいます。特に下巻はかなりの厚さになるので、カバンに入れて気軽に持ち歩く、といったことはしにくいです。

 訳注は豊富で、特にそのレイアウトが秀逸です。同じページの欄外にあり、その都度確認できるので、読書の妨げにならず非常に読みやすいです。この「赤と黒」のように訳注が必須の作品は、訳注の見やすさは重要です。

 巻末解説も充実しています。上巻では時代背景や用語の解説、下巻では作品・作者に関する解説がされています。


まとめ

 翻訳自体は、表現方法に多少の違いがあるものの、物語自体の印象を変えるほどの違いは感じませんでした。新潮文庫版と岩波文庫版は、表現の仕方に少々古さを感じさせる箇所もありますが、それはそれで味があります。

 読みやすさでは、光文社>新潮>>岩波という印象です。
 トータルで見ると、さすがに新しいだけあって光文社古典新訳文庫版が一歩リードしていると思います。特に、世界史の知識がなく、フランス文学にも不慣れな人であれば、読者にやさしい光文社版がベストだと思います。
 ただ、光文社版は値段が高め(文庫本なのに下巻は1,000円もする)なのと、ページ数がかさむので持ち運びに不便なのがネックです。
 世界史の知識がある人(ジャコバン派、過激王統派、修道会といった言葉も説明不要という人)であれば、コンパクトな新潮文庫版の方が良いかも知れません。
 岩波文庫版については、特にすすめる理由は思い付きません。今から読むのであれば、光文社版か新潮文庫版のどちらかが良いでしょう。


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pjo1062002 at 16:19|PermalinkTrackBack(1)