2008年05月06日
スタンダール「赤と黒」19世紀年代記 あらすじ(下巻)
読みやすさ ★★★☆☆ (読者への親切度では、今ある翻訳中ベスト)
ボリューム ★★★★☆ (上巻450P、下巻590Pに渡る長編)
栄光をつかみかけながら破滅へ至る主人公の生涯が美しく描かれる
文字の大きさ、訳注のレイアウト、丁寧な解説等、新訳ならではの工夫が見られる
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このあらすじは、野崎歓訳「赤と黒」(光文社古典新訳文庫)を基にしています。上巻、下巻とページを分けています。
上巻・・・家庭教師時代~神学校時代
下巻・・・パリ時代~裁判
*文中の登場人物名をクリックすると、登場人物紹介のページが開きます。
下巻では、パリを舞台にして、ジュリヤンとラ・モール侯爵の娘マチルドとの恋愛を中心に語られます。
パリ時代
第1章 田舎の楽しみ~第35章 嵐
①都会生活
ラ・モール侯爵の秘書となって、ジュリヤンのパリでの生活が始まります。
ラ・モール邸で毎日のように開かれるサロンにも出席を許されますが、身分が低く、田舎者のジュリヤンが注目を浴びることはほとんどありません。
サロンでの会話は上品だが退屈なものでした。そのサロンで、ジュリヤンはラ・モール侯爵の娘マチルドの姿を初めて見ます。
その美しさに感心したものの、高慢さを感じさせるマチルドに、ジュリヤンは好感は持ちませんでした。
カッとなりやすい性格から、決闘騒ぎを起こしたり、都会に不慣れなことから失敗もしますが、ラ・モール侯爵は、ジュリヤンの才能を見抜き、なにかと目をかけます。
<このユニークな男を、私は息子のように扱っている。それでいったい、何の不都合があろう?>(本文より引用)
②マチルドとの恋愛
クロワズノワ侯爵を始めとして、サロンに集まる青年貴族たちでは満足できないマチルドは、生まれは卑しいながらも、媚びた態度を取らないジュリヤンに興味を持ちます。
次第に打ち解けて話をするようになり、情熱的な恋愛に憧れるマチルドは、自分はジュリヤンに恋をしていると思い込むようになります。
ジュリヤンの冷淡な態度に、耐えられなくなったマチルドは、とうとう自分からジュリヤンに恋文を書きます。
手紙を受け取ったジュリヤンは勝利感に酔い痴れます。
しがない農民のぼくが、貴族の令嬢から恋を告白されたんだ!(本文より引用)
しかし、マチルドの誘いに乗り、ジュリヤンは勇気を振り絞って彼女の部屋に行ったものの、レナール夫人との恋愛で味わったような幸福感を得ることはできません。
一方、マチルドも、自分のしでかしてしまったことを後悔し始めます。ジュリヤンの愛を勝ち取ったと確信したマチルドは、そのとたん、ジュリヤンに対する気持ちも冷えてしまったのでした。
マチルドの気まぐれに翻弄されて、ジュリヤンは打ちのめされます。今度は、ジュリヤンの方が、マチルドの愛を勝ち取ろうと必死になっていました。
③ジュリヤンの勝利
ラ・モール侯爵について過激王党派の秘密集会に参加したジュリヤンは、密命を受けて旅をします。
旅先で会ったコラゾフ公爵のアドバイスに従い、パリに戻ったジュリヤンは行動を起こします。
サロンにやってくるフェルヴァク元帥夫人に近づいたジュリヤンは、せっせと夫人に手紙を書き、マチルドに対しては徹底的に冷ややかな態度を取り続けます。
ジュリヤンの策略は的中し、自尊心を傷つけられ、嫉妬心を刺激されたマチルドは、ジュリヤンに対する気持ちが抑えられなくなり、ついにジュリヤンに屈します。
「私を軽蔑したければ、どうか軽蔑してください。でも私を愛して。あなたの愛がなければ、もう生きていけない」そのまま彼女は気を失ってしまった。
<とうとうこの高慢ちきな女が、ぼくの足元にひれ伏したんだ!>(本文より引用)
③破滅
マチルドは妊娠し、ジュリヤンは愕然とします。
ラ・モール侯爵は激怒しますが、マチルドの決然とした態度に負け、二人の結婚を許し、ジュリヤンに貴族の地位と財産を与えることにします。
ラ・ヴェルネ従男爵となったジュリヤンは、軽騎兵中尉に任命されて得意の絶頂にありました。
<ぼくの物語はこれで完結だ。何もかも、ぼく一人の手柄だ。自尊心の権化のような女にも愛されることができたんだし>(本文より引用)
ところが、マチルドからの急を知らせる手紙で事態が一変します。ラ・モール侯爵の元に、レナール夫人からの手紙が届いていたのでした。
<貧しく、飢えたあの方は、完璧なまでの偽善ぶりと、か弱い不幸な女を誘惑するというやり口によって地位を得、出世しようとはかったのです>(本文より引用)
これを読んだラ・モール侯爵は、全ての約束をご破算として二人の結婚はけっして認めない旨の通告を出してきたのでした。
ジュリヤンは、その足でヴェリエールへ行くと、教会で礼拝中のレナール夫人の背中にピストルを向けて、二発の銃弾を発射します。
裁判
第36章 悲しい事実~第45章 裁判
レナール夫人は一命をとりとめました。監獄の中でそれを知ったジュリヤンは喜びます。それでもジュリヤンは、すでに死を覚悟していました。
全ての野心は消え失せ、残された日々を静かに過ごしたいと願います。そんなジュリヤンの元に、農婦に変装したマチルドが面会に来ます。
マチルドは持ち前の行動力で、裁判の行方を左右する力のあるフリレール神父に直談判し、司教の椅子と引き換えにジュリヤンを無罪にするよう交渉します。
静かに死を迎えたいジュリヤンは、マチルドの行為に心苦しくなるだけでした。死を間近にしたジュリヤンの心に浮かぶのはレナール夫人との思い出でした。
ジュリヤンはマチルドに対して良心の呵責を感じ、彼女の将来を案じて言います。
「どうかクロワズノワ侯爵と結婚してください」
(中略)
「あなたは寡婦になる、前の夫は狂人だった。それだけのことじゃないですか」(本文より引用)
運命の裁判の日、法廷に立ったジュリヤンは、陪審員や見物席の人々に向かって語ります。
「皆さん、私は皆さん方の階級に属するという栄誉に恵まれませんでした。皆さんの目から見れば私など、自分の卑しい生れに反抗した農民というにすぎないでしょう」
「皆さんにお情けを乞うつもりはまったくありません」
(中略)
「死が私を待っております。それも当然の報いでしょう」(同上)
見物人は皆、ジュリヤンの態度に打たれ、判決が良い方に行くよう願います。しかし、陪審員代表のヴァルノ氏は、ジュリヤンに死刑を宣告します。
死刑を待つジュリヤンの元に、レナール夫人が面会に来ます。死が迫る中、レナール夫人と過ごすひとときは、彼の生涯において最も幸福な時でした。
「そう、もしあなたが監獄まで会いに来てくださらなかったなら、ぼくはついに幸福を知らないまま死ぬところだったよ」(同上)
元気を取り戻したジュリヤンは、いよいよ最後の時に臨みます。
<よし、万事快調だ>と彼は思った。<ぼくは勇気満々だ>(同上)
そして物語は、鮮烈な印象のラストシーンへ向かいます。
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