2008年05月06日
スタンダール「赤と黒」19世紀年代記(上下巻) 光文社古典新訳文庫
野崎歓訳 2007年初版 フランス文学
読みやすさ ★★★☆☆ (読者への親切度では、今ある翻訳中ベスト)
ボリューム ★★★★☆ (上巻450P、下巻590Pに渡る長編)
挿絵の有無 なし
栄光をつかみかけながら破滅へ至る主人公の生涯が美しく描かれる
文字の大きさ、訳注のレイアウト、丁寧な解説等、新訳ならではの工夫が見られる
私が初めて読んだフランス文学であり、今でもフランス文学の中では一番好きな作品です。
最初に読んだのは新潮文庫版でしたが、光文社から新訳が出た機会に、改めて読んでみました。
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あらすじ
製材小屋の息子ジュリヤンは、恵まれた容貌と才覚を武器に、上流階級に食い込んでいきますが、成功まであと一歩というところで、衝動的な行動により破滅を招いてしまいます。
赤と黒 あらすじ(詳細)
主人公ジュリヤンの美学
この作品の一番の魅力は、何と言っても主人公の美少年ジュリヤンのキャラクターでしょう。
訳者解説にも書かれていますが、冷静かと思えば激情に駆られ、打算家のくせに涙もろく、といった矛盾する二面性を持つ、とらえどころのない性格です。発表当時は、主人公が「不道徳」で「陰険」であるとして非難を浴びたようです。
他人に心を許さず、自らを偽善者と認め(聖職者志望でありながら神を信じていない!)、野心のためにストイックに自分を追い込んでゆくジュリヤンの姿は、悲しくもありますが魅力的です。
この物語は、ジュリヤンと、レナール夫人、マチルドという上流階級の二人の女性との恋愛を軸に進みますが、一般の恋愛小説とは全く趣きが異なります。
農民階級出身のジュリヤンにとって、上流階級の女性との恋愛は、自分の野心を実現するための闘いです。
レナール夫人の手を握る場面では、ジュリヤンは、それを自分の「義務」として、自らを追い込みます。
<十時の鐘がなると同時に実行しよう、一日中、今晩やるのだと誓っていたじゃないか。さもなければ部屋に帰って頭を打ち抜くまでだ>(本文より引用)
また、マチルドの部屋に行くか行くまいか迷う場面では、自分を叱咤して勇気を振り絞ります。
これを逃したら一生、後悔がつきまとうだろう。別に彼女が惜しいのではない、愛人などいくらでもいる!
・・・だが名誉はただ一つだけ!(同上)
ここまでいくと悲壮感すら漂いますが、ジュリヤンは強い意志をもって、二人の女性を征服します。ジュリヤンの恋愛はまさに、知略の限りをつくして「征服する」といった表現がピッタリです。
「赤と黒」という題名について
私が、最初にこの作品を読もうと思ったのは、「赤と黒」という題名に惹かれたからでした。
「赤と黒」という色の組み合わせは、毒々しさ、危険な匂いを感じさせます。
作者のスタンダールが、この「赤と黒」という題名について何も語っていないため、この題名をめぐって様々な解釈の仕方があるそうです。
光文社版の訳者解説では、その代表的なものとして「赤は軍服、黒が僧服を表す」という説を挙げています。
ジェラール・フィリップ主演による映画の中では、実際にそのような場面があるそうですが、原作では、ジュリヤンが着る軍服の色は青(空色)なので、これは映画の演出に過ぎないようです。
私自身は、この「赤と黒」という題名から、ジュリヤンの性格の二面性をイメージします。
ギラギラした野心の中に、どこか歪んだ暗さを感じさせるジュリヤンの性格が、この「赤と黒」という題名のイメージと重なります。
スタンダールは「赤と黒」という題名にどのような意味を込めたのか、興味深いところです。
翻訳比較
現在、光文社の他に新潮文庫、岩波文庫で翻訳が出ています。新潮文庫版、岩波文庫版ともに昭和30年代の翻訳なので、光文社版は、まさに50年ぶりの新訳ということになります。
三冊を読み比べて、私の感じたことを書いてみます。
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フランス文学の魅力
この作品は、書かれた時代も国もかけ離れているため、現代の日本人にとっては、台詞が大袈裟に感じたり、登場人物の行動に不可解なところがあるかもしれません。この作品が書かれた1830年前後は、日本はまだ江戸時代の真っ盛りでした。
この作品には、退廃的で官能的な「美」が感じられますが、これはフランス文学ならではの魅力だと思います。
フランス文学は、とっつきにくい面があるのは事実ですが、それでもこの作品は、この時代のフランス文学としては飾り気がなく、すっきりしていて読みやすい方だと思います。
とくに、この光文社の新訳は、今までフランス文学に縁がなかった人にも楽しめると思います。
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それぞれのレビュー記事を読むのも参考になります。
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