ディケンズ 「クリスマス・キャロル」 光文社古典新訳文庫

2007年10月27日

トルストイ民話集「イワンのばか」 岩波文庫

イワンのばか




中村白葉訳 1932年初版 ロシア文学





読みやすさ
 ★★★★★ (飾らない簡潔な文章)
ボリューム ★☆☆☆☆ (約200ページ、非常に短い)
挿絵の有無 なし


 トルストイ晩年の集大成的作品。9つの短編からなっている
 簡単で短い作品集だが、トルストイの思想が凝縮されており、読み返すたびに味が出る


  トルストイを初めて読む人におすすめします。私は「イワンのばか」で感動してから「戦争と平和」を読んだのが正解でした。いきなり「戦争と平和」を読んでいたら途中で投げ出していたでしょう。

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 岩波文庫から出版されているこの作品は「イワンのばかとそのふたりの兄弟」をはじめとした短編9編から成り立っています。
 文章はシンプルで読みやすく、小説というより童話に近い印象です。”自分のメッセージを誰にでも分かりやすく伝えたい”というトルストイの意図が感じられます。

 読もうと思えばあっという間に読めてしまいますが、この作品は何気ないところにも意味が込められているので、じっくり丁寧に読むことで面白さが増すと思います。読み返すほど味が出る飽きのこない作品です。

 表題にもなっている「イワンのばかとそのふたりの兄弟」以外も選りすぐりの名作で、私が一番好きなのも実は「人にはどれほどの土地がいるか」という作品です。

 この作品は人間がだれでも持っている「」の性質を非常にうまく言い当てているので、身につまされる思いがしました。
 ここでは「イワンのばか」の収録作品の中から「人にはどれほどの土地がいるか」を紹介したいと思います。
 その他の作品についても別ページであらすじを紹介しています。

 イワンのばか あらすじへ

人はどれほどの土地がいるか あらすじ

 善良な農夫であるバホームは、つい「地面さえあれば悪魔だってこわくない」と豪語したばかりに悪魔に目をつけられます。

 『よしきた』と彼は考えるのだった。『ひとつおまえと勝負してやろう。おれがおまえに地面をどっさりやろう。地面でおまえをとりこにしてやろう』(本文より引用)

 バホームのところには何故かうまい話がどんどん来るようになって、とんとん拍子で土地を手に入れていきます。土地が増えれば増えるほど、もっといい土地が欲しくなります。

 ある日彼は旅人から噂を聞き、バシキール人の村を訪ねます。そこでは「わずか千ルーブリ」の代金を払えば「一日歩いた分が全部自分の土地になる」ということでした。ただひとつの条件は「日没までに出発点まで帰ってこなければならない」というものでした。

 バホームは日の出から張り切って歩き出します。太陽がじりじり照りつける中、少しでも広い土地をとろうと食事もろくにとらずに歩き続けます。彼は考えます。
 
 もう暑さがきびしくなってきたし、それに、ねむけが強く襲ってきた。それでも、彼はずっと歩きつづけて、考えた。『一時間の辛抱が一生のとくになるんだ』(本文より引用)

 彼は少々欲張って遠くまで来てしまったため、急いで出発点に帰ろうとします。彼は焦りだし、欲張ったことに後悔をはじめます

 『ああ』と彼は考えた。『しくじったんじゃないかな、欲張りすぎたんじゃないかな?もし間に合わなかったらどうしよう?』(本文より引用)
 
 太陽は地平線に沈みかかっています。バホームはなりふり構わず靴も脱ぎ捨てて走り出します。息がきれ、心臓は破裂しそうです。

 バホームは無気味になって考えた―『あんまり夢中になって、死んでしまいはしないだろうか』
 死ぬのは怖いけれども、立ちどまることはできなかった。(本文より引用)

 果たして彼は間に合って、土地を得ることができたのでしょうか。最後は思わず「うーん」とうなってしまうような結末でした。


何が一番大事なのか

 私はサラリーマンなので、主人公であるバホームの姿を、仕事のために自分の健康や家庭を犠牲にしているサラリーマンに重ねてしまいました。

 もともとバホームも決して強欲な人間ではなくて、「すこしでも自分や家族の暮らしを楽にしたい」と考えている普通の人でした。私たちが、仕事を頑張るのも同じような理由ではないでしょうか。
 それ自体はすこしも悪いことではないはずですが、バホームはなぜ落とし穴にはまってしまったのでしょうか。

 彼は土地を得ることに夢中になって、「自分の幸せのために土地を得る」のではなく、「自分を犠牲にしてでも土地を得る」というように「目的」と「手段」を取り違えてしまったのではないでしょうか。
 同じようなことは私自身にも覚えがありますし、誰にでも起こり得ることだとおもいます。

 何が「自分にとって一番大切なもの」で、自分がやっていることは「目的」なのか「手段」なのか、あらためて考え直したくなる作品です。



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pjo1062002 at 07:45│TrackBack(0) イワンのばか | トルストイ

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